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第十章

亡国の記憶

〔二百八日目。ヴェルハイデ廃都に向かっている。リーゼが変わった。笑う回数が減った。歌わなくなった。何かを覚悟している顔をしている。僕は何も訊かない。訊けない。彼女がそこで何を見るのか、僕には知る権利がない〕


 南西への街道は、日を追うごとに荒れていった。

 最初の二日間は、まだ旅人の姿があった。街道沿いの村で水を補給し、干し肉を買い足した。だが三日目から人の気配が消えた。

 ヴェルハイデに近づいているのだ。

 五年前に教会の聖戦で滅ぼされた王国。その周辺は今も「穢れの地」として教会が立ち入りを禁じている。旅人が寄りつかない理由はそれだ。

 街道の石畳は割れ、雑草が隙間から伸びている。かつては整備されていたのだろう。舗装の下から覗く石組みは丁寧な仕事だった。この道を作った職人は、もういない。

「シエル、休憩しない?」

 ミラが僕の外套の裾を引っ張った。小さな顔が疲労で曇っている。当然だ。十歳の子供に一日中歩かせるのは酷だった。

「ああ、あの木の下で休もう」

 街道脇の大樹の根元に腰を下ろした。ノクスは少し離れた岩の上に座り、例の飄々とした顔で周囲を見回している。

 ミラは僕の隣に座って、すぐに目を擦り始めた。眠いのだろう。

「ミラ、少し寝ていいよ。着いたら起こすから」

「うん……」

 ミラは僕の肩にもたれかかって、あっという間に寝息を立て始めた。小さな体の重みが肩に伝わる。

 リーゼは大樹の反対側に立って、南西の方角を見つめていた。

 蜂蜜色の髪が風に揺れている。いつもなら「風が気持ちいいね」とか「あの雲、動物に見えない?」とか、取り留めのないことを言うはずだった。

 何も言わなかった。

 三日目からずっとこうだ。リーゼの口数が減った。笑顔の回数が減った。竪琴を弾く時間が減った。代わりに、黙って遠くを見つめる時間が増えた。

 僕は手帳を開いた。

 〔二百六日目。リーゼが歌わなくなった。三曲は弾いていたのが一曲になり、今日はゼロだった。食事は作ってくれるが、味見をしない。味が濃いかどうか、気にしていない〕

 味を気にしないリーゼ。それがどれほど異常なことか、傍にいればわかる。

 〔二百七日目。リーゼが寝ている間に泣いていた。声は出していなかった。肩が震えていた。僕は気づかないふりをした〕

 手帳を閉じた。

 訊きたかった。何が辛いのか。何を怖がっているのか。僕に何ができるのか。

 でも訊けない。訊いたら、彼女は笑って「大丈夫だよ」と言う。あの笑顔で。嘘の笑顔で。

 僕にそれを見抜く権利はない。僕自身が「大丈夫」と嘘をつき続けている人間だから。

「……シエル」

 リーゼが振り返った。風が止んだ。翡翠の瞳が僕を見ている。

「明日には着くと思う」

「ああ」

「着いたら——あたし、少し変になるかもしれない。ごめんね、先に謝っておく」

「変って?」

「泣いたり、怒ったり。わかんない。自分でもわかんない」

 リーゼは目を逸らした。唇を引き結んでいる。

「いつもみたいに笑えないかもしれない。それだけ」

「……別に、いつも笑ってなくていい」

 僕の口から出た言葉に、自分で少し驚いた。

 リーゼが目を見開いた。

「笑いたくない時は笑わなくていい。泣きたいなら泣けばいい。僕はどこにも行かない」

 鎖があるから——とは言わなかった。言えばそういう意味になってしまう。鎖のせいで離れられないだけだ、と。

 そうじゃない。

 そうじゃないと、思う。

 リーゼは数秒だけ僕を見つめて、それから目を伏せた。

「……ありがとう」

 小さな声だった。普段の元気な声でも、からかうような声でもない。ただ静かな、素の声。

 初めて聞いた声のような気がした。


〔二百九日目。ヴェルハイデ廃都に到着した〕


 最初に見えたのは、城壁だった。

 正確には、城壁だったものだ。

 かつて白い石灰岩で築かれていたであろう壁は、半ば崩れ落ちていた。残った部分も黒く煤けて、蔦に覆われている。城門は焼け落ち、門柱だけが骨のように突き立っていた。

亡国の入り口

 門柱に紋章が刻まれていた。二頭の獅子が盾を掲げた意匠。風雨に晒されて摩耗しているが、まだ読み取れる。

 ヴェルハイデ王国の紋章だ。

 リーゼの足が止まった。

 門柱の前で立ち尽くしている。風が蜂蜜色の髪を乱しているのに、彼女は手で押さえようともしなかった。ただ紋章を見上げている。

「リーゼ?」

「……うん。大丈夫。行こう」

 大丈夫じゃないことはわかっていた。でも僕は頷いて、彼女の隣を歩いた。


 城門をくぐると、王都の残骸が広がっていた。

 瓦礫。灰。焼けた木材の残骸。五年の歳月が雑草と苔で覆い隠そうとしているが、破壊の痕跡は消えていない。建物の壁は半壊し、屋根は崩れ、かつて通りだった場所は瓦礫の山になっている。

 人の気配は一切なかった。風の音と、瓦礫を踏む自分たちの足音だけが響いていた。

「ここが……」

 ミラが僕の手を握りしめた。小さな手が震えている。

「シエルさん、ここ怖い」

「大丈夫だよ、ミラ。危ないものはない」

 危ないものはない。もう何も残っていないから。人も、建物も、生活の痕跡も。全てが灰と瓦礫に還っている。

 リーゼは僕たちの少し先を歩いていた。迷いのない足取りだった。瓦礫の道を、左に曲がり、右に曲がり、焼け落ちた建物の残骸の間を縫って進む。

 道を知っている。

 この街の道を、彼女は知っている。

 僕はその事実を黙って飲み込んだ。

 かつての大通りだったのだろう。道幅が広い。両脇に建物の基礎だけが残っている。商店だったのか、住居だったのか。壁の一部に色褪せた看板が残っている。文字は読めない。

「ここ、パン屋さんだった」

 リーゼが呟いた。

 僕は足を止めた。

 パン屋。彼女がそう言った建物の跡には、石造りの竈が半壊したまま残っていた。煤で黒くなった壁。割れた窓枠。

「朝になるとね、焼きたてのパンの匂いが通りに広がるの。あたし、この匂いが好きだった」

 リーゼの声は静かだった。感情を押し殺しているのではない。もう感情の蓋が開きかけていて、押し殺す余裕がないのだ。

「あっちが仕立て屋で、その隣が花屋。春になると、通りじゅう花だらけになるの」

 花屋の跡には何も残っていなかった。花も、棚も、看板も。焼けた地面に雑草が茂っているだけだ。

 リーゼは歩き続けた。僕は黙ってついていった。ミラは僕の手を握ったまま、小さく息を殺している。ノクスは後方で無言だった。


 大通りを抜けると、緩やかな坂道があった。石畳は比較的残っていたが、所々が陥没して雑草に埋もれている。坂の両側には、かつて並木だったであろう木々の切り株が点々と残っていた。

「桜桃の並木だったの」

 リーゼが切り株の一つに手を触れた。

「五年前の春に、最後の花が咲いた。あたしは見られなかったけど。逃げたのが秋だったから」

 最後の春。そして秋の夜に彼女は逃げた。

 逃げた。この街から。

 坂を上りきると、視界が開けた。

 丘の上に、城があった。

 否——城があった場所に、廃墟があった。

 かつて天守閣だったであろう石組みの残骸が、空を突き刺すように聳えている。壁は半分以上が崩れ、残った部分も黒く焼け焦げている。城の周りを囲んでいた堀は干上がり、泥と瓦礫で埋まっていた。

 城門は完全に失われていた。巨大な石のアーチだけが残り、その向こうに崩れた中庭が見える。

空の玉座

 リーゼの足が止まった。

 完全に。

「……」

 彼女は声を出さなかった。城の廃墟を見上げたまま、石のように動かなかった。

 風が吹いた。瓦礫の間を通り抜ける風が、低い音を立てた。まるで、この街の亡霊が嘆いているかのような音。

「リーゼ」

 僕は彼女の名前を呼んだ。偽名を。

 返事はなかった。

「リーゼ」

 もう一度呼んだ。

 彼女の肩が震えた。

「……ここが、あたしの家だった」

 掠れた声だった。

 家。

 この城が、彼女の家。

 僕の中で、何かが繋がりかけた。パン屋を知っていたこと。花屋を知っていたこと。並木が桜桃だと知っていたこと。そしてこの城を「家」と呼んだこと。

 吟遊詩人が城に住むはずがない。

 でも僕は何も言わなかった。彼女の嘘を暴く気はなかった。今はまだ。

「入る?」

「……うん」


 城の内部は、外から見る以上に酷かった。

 大広間の天井は抜け落ち、空が直接見えた。壁を飾っていたであろうタペストリーは焼け落ち、金具だけが壁に残っている。床の石板は割れ、隙間から雑草が伸びていた。

 焦げた柱。溶けた燭台。砕けたシャンデリアの破片が床に散乱している。

 五年前の炎の痕跡が、そのまま残されていた。

 誰も片付けなかったのだ。片付ける人間がいなかったのだ。

 リーゼは大広間を横切って、奥の廊下に向かった。壁が崩れて半分露天になった廊下を、彼女は躊躇いなく歩いた。この先に何があるのか知っている歩き方だった。

「リーゼおねえちゃん、待って」

 ミラが声をかけたが、リーゼは振り返らなかった。聞こえていないのか、聞こえていても止まれないのか。

「ミラ、ノクスと一緒にここで待っていてくれ」

「でも——」

「大丈夫。僕がついていく」

 ミラは不安そうに頷いた。ノクスが無言でミラの肩に手を置いた。珍しく、あの少年の顔に温度があった。

 僕はリーゼの後を追った。


 廊下の突き当たりに、小さな部屋があった。

 扉は失われていた。石造りの壁は比較的残っていたが、天井の一部が崩れて瓦礫が室内に散乱している。

 部屋の奥に、窓があった。窓枠のガラスは割れ、蔦が外から侵入して壁を覆っている。窓の下に、小さな木の椅子が——半分焼けた木の椅子が、まだ残っていた。

 リーゼはその椅子の前で膝をついた。

「……」

 彼女の手が椅子に触れた。焼け焦げた木肌を、指先でなぞった。

「ここで竪琴を習ったの」

 声が震えていた。

「母上が——おかあさんが、この椅子に座って。あたしは床に座って。弦の押さえ方から教えてもらった」

 母上。

 その言葉は、吟遊詩人の口からは出ない。

「最初は全然弾けなかった。指が痛くて泣いて。そしたらおかあさんが笑って——」

 リーゼの声が途切れた。

「『泣いてもいいけれど、手は止めないで。音は涙よりも遠くに届くから』って」

 その言葉を口にした瞬間、リーゼの肩が大きく揺れた。

 僕は彼女の後ろに立っていた。何を言えばいいのかわからなかった。何も言えなかった。

 リーゼの手が椅子から離れ、顔を覆った。

「……っ」

 声にならない声が漏れた。

 彼女が泣いている。

 今まで見たことのない泣き方だった。いつもの「泣いてない、目にゴミが入っただけ」のような泣き方ではない。体の奥から絞り出されるような、五年分の痛みが溢れ出すような泣き方。

 肩が震えている。背中が丸まっている。床に崩れ落ちるように、膝をついたまま前のめりになっている。

 声は出さなかった。声を出したら——本当に壊れてしまうと知っているかのように、唇を噛み締めて、音を殺して泣いていた。

 僕はしゃがんで、彼女の隣に膝をついた。

 何も言わなかった。

 ただ、手を伸ばした。

 彼女の手を——顔を覆っている手を、そっと握った。

 リーゼの手は冷たかった。震えていた。僕の手も震えていたかもしれない。

 握り返してきた。強く。痛いくらいに。

 僕はそのまま黙って、彼女の隣にいた。

 崩れた天井から空が見えた。灰色の雲が流れている。どこかで鳥が鳴いた。

 時間がどれくらい経ったのかわからない。

 風が吹くたびに瓦礫が軋み、蔦の葉が擦れた。この城が——この街が、まだ生きている最後の音のように。


 リーゼが顔を上げたのは、だいぶ経ってからだった。

 目が真っ赤だった。頬が濡れていた。でも、もう震えは止まっていた。

「……ごめん、見苦しいとこ見せた」

「見苦しくない」

「嘘。ひどい顔してるでしょ、あたし」

「いつもと変わらない」

「それ褒めてないよね」

 僕は少しだけ笑った。彼女も、ほんの少しだけ口元を緩めた。涙で顔がぐちゃぐちゃのまま。

「ここに住んでたんだな」

「……うん」

「城に」

「うん」

 もう隠す気がないようだった。あるいは、隠す力が残っていないのか。

 リーゼは目を拭い、僕の隣に座った。焼けた椅子を背にして、床に並んで座る。瓦礫だらけの小さな部屋。かつて誰かの大切な場所だった場所。

「あたしね、この城で生まれたの」

 リーゼが静かに話し始めた。

「お姫様じゃないけど——まあ、似たようなもの。この国の偉い人の娘だった」

 偉い人。彼女は「王」とは言わなかった。でも城に住む「偉い人」の意味は限られている。

「小さい頃は幸せだったよ。毎日花が咲いてて、みんな笑ってて。おかあさんが竪琴を教えてくれて、おとうさんが城下町に連れ出してくれて」

 彼女の声は穏やかだった。泣き疲れた後の、透明な声。

「パン屋のおじさんがね、あたしが行くと焼きたてのパンをおまけしてくれたの。いっつも。おかあさんには内緒だよ、って」

 あのパン屋。大通りの、竈だけが残った建物。

「花屋のおばさんは、あたしの誕生日に花冠を作ってくれた。青い花が好きだって言ったら、毎年青い花冠を」

 彼女の声が、少し揺れた。

「みんな、死んじゃった」

 風が吹いた。

「教会が来たの。聖戦だって。この国は異端の温床だから浄化するって。意味わかんなかった。あたし十四歳だったし。異端って何。浄化って何。おとうさんが何かした? おかあさんが悪いことした? パン屋のおじさんが何を——」

 声が震え始めた。でも、泣かなかった。もう涙は出尽くしたのかもしれない。

「秋の夜だった。城に火がついて。おかあさんが——」

 リーゼは言葉を切った。

 目を閉じた。


 僕の中にも、断片的な記憶がある。

 五年前の秋。僕はまだ使徒だった。第七使徒ルシアン・ヴァルトロー。十六歳。

 ヴェルハイデへの聖戦には参加しなかった。僕に割り当てられた任務は別の地域だった。だが報告書は読んだ。「異端国家ヴェルハイデの浄化完了。残存勢力なし」と書かれた、簡潔な報告書。

 あの報告書の「浄化」が何を意味していたか、今の僕にはわかる。

 城を焼いた。街を焼いた。パン屋も、花屋も、桜桃の並木も。

 人を殺した。王を、民を、子供を。

 「残存勢力なし」——つまり、皆殺しだ。

 そう思われていた。

 でも一人、生き残った。

 目の前にいるこの子が。


 リーゼが再び口を開いた。声は低く、記憶の底を浚うような話し方だった。

「城下町に火が回った時、あたし一人で逃げようとしたの。城の中は煙だらけで、廊下も階段もわからなくなって。やっと外に出たら——城下町も燃えてた」

 彼女の声が少し震えた。

「兵士がいたの。教会の兵士。あたしを見つけて、追いかけてきた。路地に逃げ込んだけど行き止まりで、もう駄目だって思った時に——」

 リーゼの目が、遠い場所を見ていた。五年前の夜を。

「少年が来たの。あたしより少し年上くらいの。教会の黒い法衣を着てたけど、兵士とは違った。右目に包帯を巻いてて——」

 右目に包帯。

 その言葉が耳に引っかかった。何かが僕の記憶の底で揺れたような気がした。だが手を伸ばしても掴めない。霧の中に沈んだ石を探るように、指先が空を切る。

「その少年が、兵士の前に立ったの。それで——目が光った。一瞬だけ。赤い、不思議な光。兵士たちが急に動けなくなって、崩れるみたいに座り込んだ」

 目が光った。

 呪眼、と僕の中で何かが反応した。だがそれは漠然とした既視感でしかなく、具体的な記憶に結びつかなかった。

「でもその直後、その少年が右目を押さえて崩れたの。すごく苦しそうで。膝をついて、肩で息をして。あたし怖くて動けなかったら——」

 リーゼの声が、かすかに震えた。

「その少年が、崩れたまま言ったの。『……大丈夫。君は、逃げていい』って。穏やかな声で。目が光った後なのに、あの人自身が一番つらそうだったのに」

 僕は黙って聴いていた。彼女の語る少年の姿が、不思議な残響を伴って頭の中に響いていた。教会の法衣。右目の包帯。目の光。代償。

 どこかで聞いた話のような気がする。いや——どこかで経験した記憶のような。

 だが何も思い出せない。呪眼の代償で消えた記憶の空白は、掴もうとするほど深く沈んでいく。

「あたし、走ったの。振り返ったら、あの少年はまだ膝をついたままだった。薬草の匂いがしたの、あの人から。城下町が燃えてて、煙と血の匂いばっかりだったのに、あの人の傍だけ薬草の匂いがした」

 薬草の匂い。

 僕の外套にも、常に薬草の匂いが染み付いている。薬師の職業病のようなものだ。だがそれだけの偶然で何かを結びつけるのは飛躍だと、僕の理性が判断した。

「あの少年がいなければ、あたしはあの夜死んでた。あの人が誰だったのか、今でもわからない。教会の法衣を着てたのに、教会の兵士からあたしを庇ってくれた。——あの人も、大丈夫だったのかな」

 リーゼの視線が、僕の眼帯の上をかすめた。ほんの一瞬だけ。気のせいだったかもしれない。

 僕は何も言えなかった。何かを言うべきだという直感と、何を言えばいいのかわからないという無力感が拮抗していた。彼女の話す少年の特徴——教会の法衣、右目の包帯、目の光、代償——それらが僕自身と重なることに、僕は気づいていなかった。気づけなかった。記憶がないから。

「それで——そのあと城に戻ったの。煙で前が見えなかったけど、なんとか廊下まで辿り着いて。そしたらレイヴンが来てくれた」

 リーゼの声が、少し安定を取り戻した。

「レイヴンっていう騎士がね、あたしを見つけて連れ出してくれたの。城の裏の秘密の通路を通って。走った。ずっと走った。後ろで城が燃えてて。振り返りたかったけど——」

 『殿下、振り返ってはなりません』

 その声が聞こえた気がした。リーゼの記憶の中の声が、彼女の語りを通じて。

「レイヴンがね、あたしの手を引いて走りながら言ったの。『殿下、振り返ってはなりません』って」

 殿下。

 その呼称が意味するものは一つしかない。

「でも振り返った。一回だけ。城の天守が燃えてた。真っ赤だった。空まで赤かった」

 リーゼの翡翠の瞳が、ここではない遠くを見ていた。五年前の夜を。

「あの夜から、あたしはリーゼになった。名前を変えて、髪を染めようかと思ったけど上手くいかなくて。吟遊詩人のふりをして旅をした。おかあさんが教えてくれた竪琴があったから」

 吟遊詩人は偽りの姿。本当は——

「レイヴンとは途中ではぐれた。たぶんまだ生きてると思う。あの人は強いから」

 リーゼが僕を見た。

 翡翠の瞳がまっすぐに。

「シエル」

「うん」

「あたしの本当の名前は、エリザヴェータ・フォン・ヴェルハイデ」

 心臓が止まった。

 止まって——動いた。

「あなたが仕えていた教会が滅ぼした国の、姫だよ」

 世界が静止した。

 音が消えた。風も、鳥の声も、瓦礫が軋む音も。全てが遠のいて、彼女の声だけが頭の中に反響していた。

 エリザヴェータ・フォン・ヴェルハイデ。

 ヴェルハイデ王国の王女。

 滅亡した国の、唯一の生き残り。

 そして——「あなたが仕えていた教会が」。

 彼女は知っている。

 僕が元使徒だと。

「……知って、いたのか」

 声が掠れた。自分の声が、自分のものに聞こえなかった。

「セラが——あの銀髪の騎士が、あなたのこと『ルシアン』って呼んだ」

「聞いて——」

「聞いてた。全部」

 リーゼは——エリザヴェータは、静かに言った。

「使徒は教会の剣でしょう。あたし、調べたことあるの。聖廟教会の七使徒。教皇に仕える最高戦力」

 僕は何も言えなかった。

 彼女は続けた。

「あなたが使徒だったってことは、教会側の人間だったってことだよね。あたしの国を滅ぼした教会の」

「……ああ」

「あたしの家族を殺した組織の」

「ああ」

 否定できない。否定する権利がない。

 僕は使徒だった。教会に属していた。ヴェルハイデの聖戦には参加しなかったが、同じ組織にいた。同じ旗の下にいた。

 僕の仲間が——かつての仲間が、この街を焼いた。この城を燃やした。パン屋のおじさんを殺した。花屋のおばさんを殺した。

 彼女の両親を。

「知ってて……黙っていたのか」

「うん」

 リーゼの返事は、驚くほど穏やかだった。

「だって、知ったら——あなた、離れていくでしょう?」

 息が詰まった。

「あたしがヴェルハイデの姫だってわかったら、あなたは罪悪感で壊れる。教会にいた自分を許せなくなる。あたしの顔を見るたびに、滅ぼした国のことを思い出す」

 その通りだった。今まさに、僕の胸の中で罪悪感が暴風のように渦巻いている。

「そしたらあなた、ここにいられなくなる。『僕が傍にいるべきじゃない』って言い出して、離れようとする」

 その通りだ。

 今この瞬間、僕の頭の中でまさにその言葉が形を成そうとしている。

「離れたら、鎖の契約で——」

「死ぬ。それは知ってる」

 リーゼが小さく笑った。涙の跡が乾いた頬に、薄い笑みが浮かんでいた。

「だから黙ってた。知らなければ、あなたは離れない。知らなければ、あたしたちはこのまま一緒にいられる。嘘つきのまま」

「リーゼ——」

「リーゼじゃないよ。エリザヴェータ。……でも、リーゼって呼んでくれていいよ。その方が好き」

 僕は彼女を見た。

 蜂蜜色の髪。翡翠の瞳。小さな体。竪琴を背負った、偽名の吟遊詩人。

 その全てが、嘘だった。吟遊詩人ではなく王女。旅人ではなく亡国の姫。

 でも——

 シチューの味が濃くなること。竪琴の弦を爪弾く癖。朝起きて笑顔の練習をすること。僕のシチューを美味しいと言って食べること。ミラの頭を撫でる手。

 それは嘘なのか。

 嘘のはずがない。

「……なぜ今、言った」

「え?」

「黙っていればよかった。知らないまま——」

「知らないままじゃ、もう無理だったの」

 リーゼが——エリザヴェータが、壊れた窓の向こうの空を見上げた。

「ノクスに言われたんだ。鎖の契約は感情を増幅するって。隠し事を抱えたまま共鳴を続けたら、いつか壊れるって」

「……」

「あたし、あなたの傍にいたいの。嘘じゃなく。偽名じゃなく。あたしの本当の名前で。だから——」

 彼女は僕に向き直った。

 翡翠の瞳に、涙の膜が張っていた。でも泣いてはいなかった。これ以上泣かないと決めた目をしていた。

「ここに来たの。あたしの全部が埋まっているこの場所に。あなたを連れて」

 僕は黙っていた。

 何を言えばいい。謝ればいいのか。許しを乞えばいいのか。「僕はヴェルハイデの聖戦には参加していない」と言えば、少しは楽になるのか。

 ならない。参加していなくても、僕はあの組織にいた。同じ聖衣を纏い、同じ祈りを捧げ、同じ旗の下で剣を振るっていた。

 彼女の家族を殺した組織の一員だった。

「……僕は」

 声が出た。

「僕はヴェルハイデの聖戦に参加していない。別の任務にいた。でも——それは言い訳にならない」

「知ってるよ」

「僕がいた組織が、君の国を——」

「知ってる」

「君の家族を——」

「知ってるって。全部」

 リーゼは僕の言葉を遮った。

「知ってて、あたしはあなたの傍にいたの。最初からじゃないよ。ルシアンって呼ばれた時に気づいた。それまでは本当に知らなかった」

「気づいてから——どれくらい」

「二週間くらい。セラの戦闘の後から」

 二週間。鎖の契約が成立してから、ずっと。

 元使徒だと知りながら、彼女は僕の傍にいた。シチューを作り、竪琴を弾き、「大丈夫?」と笑いかけた。

 知っていて。

 全部、知っていて。

「怖くなかったのか」

「怖かったよ。めちゃくちゃ怖かった」

 リーゼは正直に答えた。

「でも——あたしが知ってるシエルは、シチューの味にうるさい薬師でしょ。ミラの傷に丁寧に薬を塗る人でしょ。手帳にあたしのことを書いてる人でしょ」

「……手帳、見たのか」

「ごめん。一回だけ」

 僕は額に手を当てた。

 秘密も何もあったものじゃない。互いの嘘で成り立っていた関係が、今、音を立てて崩れている。

 だが——崩れた後に残っているものが、何もないわけではなかった。

「リーゼ」

「うん」

「僕の本当の名前は、ルシアン・ヴァルトローだ」

 初めて、自分の口から本名を告げた。二年間、誰にも言わなかった名前。

「元第七使徒。今は追われている。マルヒェン村の事件の犯人にされた。本当は——村を救おうとして、呪眼が暴走した」

「……うん」

「呪眼の代償で記憶が消え続けている。師匠の顔はもう思い出せない。いずれ全部消える」

「知ってる。手帳に書いてあった」

「……全部読んだのか」

「一ページだけ。あたしのことが書いてあるところだけ」

 僕は天井を見上げた。崩れた天井の向こうの空。灰色の雲が、ゆっくりと流れていた。

「君の国を滅ぼした教会に、僕はいた。それは変えられない事実だ」

「うん」

「許してほしいとは言わない。許されることじゃない」

「許すとか許さないとか、そういう話じゃないよ」

 リーゼが言った。

「あなたが国を滅ぼしたわけじゃない。教会が滅ぼしたの。大司教が命令して、軍勢が実行した。あなたはそこにいなかった」

「でも——」

「でもじゃない」

 リーゼの声に、初めて強さがあった。

「あたしが欲しいのは、あなたの罪悪感じゃない。あたしが欲しいのは——」

 彼女は言葉を探した。

「あたしが欲しいのは、嘘じゃないあなた」

 僕は彼女を見た。

 彼女は僕を見ていた。

 翡翠の瞳に映る僕は、どんな顔をしているのだろう。

 元使徒。呪眼の持ち主。記憶を失い続ける壊れた人間。彼女の国を滅ぼした組織の元一員。

 それでも彼女は「嘘じゃないあなた」が欲しいと言った。

 僕はそれに値するのか。わからない。わからないけれど——

「……ルシアン、って呼ばれるのは久しぶりだ」

「慣れる?」

「いや。シエルでいい。シエルの方が、今の僕には合っている」

「じゃああたしもリーゼでいいよ。エリザヴェータって長いし」

「……七文字は確かに長い」

「でしょ」

 リーゼが笑った。

 泣いた後の、腫れた目で。ぐちゃぐちゃの顔で。

 でもその笑顔は——今まで見たどの笑顔よりも、本物に見えた。


 僕たちはしばらく、崩れた部屋の中に並んで座っていた。

 風が瓦礫の間を通り抜けていく。蔦の葉が擦れる音。遠くで鳥が鳴く声。

 リーゼは竪琴を膝の上に置いた。弦に指を滑らせた。

 旋律が流れ出した。

 あの曲だった。旅の途中で何度も聞いた、名前のない子守歌。リーゼが最もよく弾く曲。

 でも——今日は違って聞こえた。

 この城で、この部屋で、焼けた椅子の前で弾くその曲は、名前のない曲ではなかった。

 ヴェルハイデの民謡だ。

 母親から教わった曲。この国で歌い継がれてきた曲。

 リーゼの唇が動いた。今日初めて、歌詞を口にした。小さな声で。

 あたしには聞き取れるか聞き取れないかの声量だった。でも聞こえた。風が運んできた。

 帰る場所はもうないけれど。

 あの丘の風を忘れない。

 名前を変えても消えないものがある。

 あなたがくれた歌がある。

 リーゼの声が震えた。弦を弾く指が止まりかけて、でも止まらなかった。

 『泣いてもいいけれど、手は止めないで。音は涙よりも遠くに届くから』

 母親の言葉を守っているのだ。泣きながら、手は止めない。

 僕はただ聴いていた。

 何も言わず、何もせず。

 彼女の歌が、廃墟の空に吸い込まれていった。崩れた天井の向こうの灰色の空に。

 もう残っていない国に。もう帰れない場所に。

 でも、歌は届く。音は涙よりも遠くに届く。


 曲が終わった。

 リーゼが竪琴を下ろした。

 長い沈黙。

「……あたしね」

 リーゼが呟いた。

「ずっと逃げてたの。五年間。名前を変えて、過去を隠して、笑って生きてきた。笑ってないと壊れるから。ここに来るのも怖かった。来たら壊れるって思ってた」

「壊れた?」

「うん。壊れた。でも——」

 リーゼは僕の手を見た。さっきからずっと、僕たちの手は繋がったままだった。いつ繋いだのか覚えていない。

「壊れても、握ってくれる手があった」

 僕は何も言えなかった。

 言えなかったけれど、手を握る力を少しだけ強くした。

 リーゼが、微かに握り返した。


 大広間に戻ると、ミラが駆け寄ってきた。

「リーゼおねえちゃん、目が赤い!」

「埃が入ったの。ほら、ここ埃っぽいでしょ」

「また同じ言い訳……」

 ミラが呆れた顔をしている。十歳の少女に見透かされる嘘をつくリーゼは、やはりリーゼだった。

 ノクスが壁にもたれて僕を見ていた。何も訊かなかった。あの目で全てを察しているのだろう。

「帰ろう」

 リーゼが言った。

「帰る? どこに?」

 ミラの問いに、リーゼは少し考えてから答えた。

「隠れ家。今はあそこが家だから」

 ミラが嬉しそうに笑った。家という言葉に。

 城門を出る時、リーゼは一度だけ振り返った。

 崩れた城を。焼けた街を。灰と瓦礫に覆われた、かつての王都を。

 僕も振り返った。

 ここがリーゼの——エリザヴェータの故郷だった。ここで生まれ、ここで育ち、ここで全てを失った。

 教会が奪った。僕がいた組織が。

 その事実は消えない。鎖のように、僕たちに纏わりついている。

 でも——鎖には、もう一つの意味がある。

 繋がっている、ということだ。

 互いの秘密を知った。互いの本当の名前を知った。嘘の旅が、今日、少しだけ本当になった。

 僕たちはまだ偽名で呼び合っている。まだ嘘をついている。教会に追われているし、鎖の呪いも解けていない。師匠の顔も思い出せないし、リーゼの国は灰のままだ。

 何も解決していない。

 でも——隣を歩いている。

 それだけが、今の僕にある確かなことだった。


 帰り道、リーゼがぽつりと言った。

「ねえ、シエル」

「なに」

「シチュー、今度はあたしが味見するから」

「……それは助かる」

「ひどい。もうちょっと期待してよ」

「期待した結果があの塩加減だった」

「それ根に持ってるでしょ」

 僕たちは、いつもの会話をした。偽名で呼び合って、くだらないことで言い合って。

 でも前とは何かが違っていた。

 何が違うのかは、うまく言葉にできない。

 ただ——彼女の隣を歩く足が、少しだけ軽かった。


 〔二百九日目。追記。リーゼの本当の名前を知った。彼女は僕の名前を知っていた。互いの正体を知った上で、僕たちはまだ一緒にいる。鎖のせいだけじゃない。そう、信じたい。

 リーゼの過去にも教会が関わっていた。滅亡の夜、教会の法衣を着た少年が彼女を救ったという。右目に包帯を巻き、目を光らせて兵士を無力化し、その代償で崩れ落ちた少年。正体は不明。

 ――彼女は笑っていた。泣いた後に。本当の名前を言った後に。今まで見た中で一番きれいな笑顔だった。

 この顔を忘れたくない。

 この顔だけは、絶対に忘れたくない〕


── リーゼ side ──

 言ってしまった。

 本当の名前。本当の過去。五年間、誰にも明かさなかったものを。

 崩れた天井の向こうに灰色の空が広がっている。あたしの家だった城。あたしの国だった廃墟。その中で、あたしはシエルの隣に座って、手を繋いでいる。

 この人に、全部話してしまった。

 名前を言った瞬間、シエルの顔が凍りついたのを覚えている。心臓が止まったような顔。そしてすぐに——罪悪感に塗り潰されていく表情。

 やっぱり、そうなるよね。

 わかってた。わかってたけど、もう黙ってられなかった。ノクスに言われたこともある。でもそれだけじゃない。この城に来て、おかあさんの椅子を見て、全部が溢れてしまった。嘘の器がいっぱいになって、こぼれた。

 シエルは「僕はヴェルハイデの聖戦に参加していない」と言った。「でもそれは言い訳にならない」と。

 馬鹿だなあ、この人は。

 言い訳にならないなんて、あたしは思ってない。参加していなかったなら、それはそれで事実だ。あの夜城を焼いたのはシエルじゃない。教会という組織にいたことと、あたしの家族を殺したこととは、同じじゃない。

 ……でも。

 あの夜の少年の話をしている時、あたしはちらりとシエルの眼帯を見てしまった。

 右目を覆う、黒い眼帯。

 五年前の夜。燃える城下町。教会の法衣を着た少年。右目に包帯。目の光。代償で崩れ落ちた姿。薬草の匂い。

 ……似てる。

 最初に会った時から、ずっと思っていた。嵐の夜にシエルが手当てをしてくれた時、眼帯と薬草の匂いに心臓が跳ねた。あの時は「まさかね」と自分に言い聞かせた。偶然だと。右目に何かを抱えた人間なんて、この大陸にいくらでもいる。薬師なら薬草の匂いがして当たり前だ。

 でも、旅を続けるうちに「偶然」の数が増えていった。

 シエルが呪眼を使った時の、あの光。五年前の少年の目が放った光と、同じ色だった。赤い、不思議な光。

 シエルが呪眼を使った後に苦しむ姿。右目を押さえて崩れる姿。あの夜の少年と、同じだった。

 この人が、あの夜の人なんじゃないか。

 そう思ったことが、何度もある。

 でも確かめられなかった。確かめて違ったら——期待した自分が惨めだから。確かめてそうだったら——この人が背負うものがまた一つ増えるから。

 シエルは覚えていないのだ。呪眼の代償で記憶を失っている。五年前のことなんて、とっくに消えているだろう。あたしを助けたことも。あの夜、城下町にいたことも。

 もし本当にこの人があの少年だとしたら。

 あの人は、あたしを助けるために呪眼を使って、その代償であの夜の記憶を失った。あたしを救った記憶を、自分から差し出した。

 ——そんなの、ずるい。

 泣きそうになって、慌てて視線を逸らした。今はそれよりも、もっと大きなことがある。あたしの名前を知ったシエルが、どうするか。離れようとするんじゃないか。「僕がいるべきじゃない」って、あの顔で言い出すんじゃないか。

 でも、シエルは離れなかった。

 手を握ってくれた。冷たい手で。震える手で。何も言わずに、あたしの隣にいてくれた。

 ああ、よかった。

 よかった——と思う自分が、少し怖い。

 だってあたし、まだ全部は話していない。

 聖女のこと。あたしの力のこと。シエルの呪いが楽になるのは、あたしの浄化のせいだということ。あたしがいなくなったら、シエルの呪いは加速する。あたしがいるからシエルは壊れずに済んでいる。

 それを言ったら、シエルは——「利用していたのか」と思うだろうか。あたしが傍にいたのは、自分の呪いを抑えるためだったのかと。

 違う。違うけど——違うと証明できる言葉を、あたしは持っていない。

 全部話せたら、どんなに楽だろう。

 でも今日は、名前だけで精一杯だった。

 ……帰り道、シエルとくだらない話をした。シチューの塩加減がどうとか。いつもと同じ。何も変わらないみたいに。

 でも変わった。

 手を繋いだまま歩いていたことに、途中まで気づかなかった。気づいてからも離さなかった。シエルも離さなかった。

 ——この人が、あの夜の人だったらいいのに。

 そう思ってしまう自分を、あたしは止められなかった。

 確証はない。たぶん永遠にないかもしれない。シエルの記憶は消えているし、あたしが見たのは暗闇の中の一瞬だけだ。

 でも。

 もしそうだったら。

 あたしは二度、この人に救われたことになる。あの夜と、嵐の夜と。

 二度も助けてくれた人の隣で、あたしはまだ嘘をついている。聖女であること。あたしがいるから呪いが鎮まること。それを知っていて黙っていること。

 ——ごめんね、シエル。

 いつか全部話すから。

 全部話しても、まだ隣にいてくれるって信じていいなら。

 ……おかあさん。

 あたし、大丈夫だよ。まだ泣いてるけど、手は止めてないから。

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